グローバル教育
文化学園大学杉並中学校高等学校 副校長 青井 靜男 氏

2言語×2文化教育で養う「複眼的視点」と圧倒的な英語力 

はじめに

私は幼少期、米空軍のヘッドクォーターがある地域に住んでいました。家のすぐ近くには将校のアメリカンハウスがいくつもある環境で、まだ日本は高度成長前だったこともあり、アメリカの凄さや物資の豊富さを肌で感じていました。いつか海外で暮らしたいという夢を抱きながら育ちましたが、大学卒業当時は1ドル300円程で、海外に行ける人はごく限られていました。私は海外と接点のある職業をいくつか経験しながら、ご縁をいただき本校で教鞭を取るに至りました。入職当時はまだホームステイも珍しい時代でしたが、春と夏は必ず生徒を連れてイギリスやアメリカ、オーストラリアやニュージーランドなど海外に赴き、日本の学校としてはかなり早い段階から、生徒たちの国際感覚が育まれるよう導いてきました。

本校は、2015年に日本で初めて、カナダのブリティッシュコロンビア(BC)州の教育省から海外校として認定されました。以来、日本の教育課程とともにBC州のカリキュラムも提供する「ダブルディプロマコース」を開講しています。当プログラムは日本の文部科学省とブリティッシュコロンビア州(カナダ)教育省の両方から承認を受けており、1つのキャンパスで日本とカナダ2つの学校に在籍していることになる画期的な学び方です。 

かつて私が憧れた海外での学びを生徒たちが日々実践している姿を見ると羨ましく思うとともに、他に類を見ないこの革新的なグローバルプログラムを展開しながら、学校の更なる国際化とグローバル人材の育成に日々取り組んでいます。

「ダブルディプロマコース」 2言語 × 2文化教育とは

同コースの最大の魅力は、日本の中等教育をしっかり学びながら「英語で学ぶ」機会があり、高い英語力を養えることです。BC州の授業は英語で行われますが日本の授業は日本語で受けるバイリンガルスタイルで、茶道・弓道など伝統文化を学べる授業もあります。カナダの授業内では Canada Day、Halloween、Remembrance Day など現地の文化を感じるイベントもあり、決して「英語だけを学ぶコース」ではありません。この類まれな環境下で目指しているのは、一つの価値基準に偏らない「複眼的視点」と「柔軟に考えられる力」の育成です。

卒業時には、カナダBC州と日本両方のディプロマ(卒業資格)を取得することができ、進学先は、日本を含め世界中の大学へ道が開かれます。実際に、2022年度は卒業生40名のうち海外大学の合格者は25名おり、世界大学ランキングで上位にあるヨーロッパやカナダの大学への進学を果たしました。また、国内の一部の大学(早稲田・ICU・上智など)は帰国生枠・海外生枠として受験が可能で、一般受験にも対応しているカリキュラムのため、受験の機会もダブルに広がり国内有名大学にも多数合格者を輩出しています。実際に学んでいる生徒からも「全て英語で行われるカナダのカリキュラムはとても楽しく海外の高校に通っているよう」「カナダの卒業資格を取得できるため、英語圏の海外大学を志望する際にはとても大きなメリットがある」と好評です。

目指す国際教育とBC州教育の親和性

今からちょうど12年ほど前に国際バカロレア(IB)が日本でも注目されるようになりました。少子化に歯止めがかからない日本が引き続き発展していくうえで、それを支えるグローバル人材の育成が喫緊の課題となり、2013年に「JAPAN is BACK」という日本再興戦略が閣議決定されたのがきっかけです。人材力強化の観点からIB認定校を増やすべく数値目標が掲げられたことは、皆さんの記憶にも新しいでしょう。

当時、本校でもIBの導入を検討したことがありました。しかし、本校の目指す方向性はIBよりBC州教育との親和性が高いと判断し、BC州の海外校認定に舵を切ることにしたのです。理由は3点あります。1つ目はBC州へはすでにホームステイを行なっており環境や教育も熟知していたこと。2つ目はBC州の教育システムは学習者・生徒が中心になるよう構成されており暗記に頼る学習法ではなく、探究型の授業を展開していたこと。そして3つ目は移民が多いカナダは、英語が話せない人たちを国民にするための教育システムが十分整っていたことです。

カナダの教育で一番日本と異なるのは「多様性を認める」点です。人種や宗教、国籍やLGBTQ に関して分け隔てなく捉えており、誰かを排除するという考えとは無縁で誰でも受け入れる文化が根付いています。学び方が全て実践的であるという点も面白いと感じます。例えば物理で「加速度」を学ぶ際は、皆で後楽園遊園地に行きます。そこで ジェットコースターの前であの加速度はどうなっているかと計算式を出しそれが合っていたらジェットコースターに乗れるという具合です。生物でも授業の多くは校庭に出たり近くの公園に行ったりしています。机上の学びとはかけ離れた実生活に密着した学びのスタイルは、まさに生徒の好奇心を駆り立て学ぶ意欲につながっていると確信しています。

「文杉」ならではの英語教育とは

本校は、ダブルディプロマを導入した最初の年に数学・読解力を測る統一試験において、現地の学校とBC州のカリキュラムを導入する海外35校の中で世界一位に輝きました。これは、BC州の教育省にも驚嘆され、同教育省が本校に視察に来たほどでした。この実績をもたらしたのは本校独自の英語教育によるものです。 本校は全生徒に対し「どんな生徒でも英語力を伸ばす」をモットーに、英語力が飛躍的に伸びる授業を展開しています。最大の特徴は、年間200時間を超えるネイティブスピーカー主導型の授業です。リーディングやライティングもネイティブ教員の指導を受けることにより、バランスの良い4技能型の英語が身につき、各種英語検定試験にも無理なく対応できています。今年度からは「AP(Advanced Placement)プログラム」も開始します。 中学の3年間は生徒のレベルに合わせた授業を展開しており、かつ圧倒的な英語時間数を誇ります。年間の授業数でいうと、一般的な私立中学は210時間に対し本校の通常クラスは315時間、ダブルディプロマコースでは595時間の授業数です。また、世界各国出身の優秀なネイティブ教員25名が担当する年間授業数は一般的な私立中学で70時間に対し本校の通常クラスは245時間、ダブルディプロマコースでは595時間の授業数です。授業内容も「間違っても良いから発話してみる」という姿勢を大切にしており、生徒たちは自ずと大学入試新テストをはじめ各種試験にも強くなっていきます。

共学化の意義とは

中学高校の時代に男女別学で学ぶことは、それなりのメリットがあると思います。しかし、ジェンダーフリーや男女平等が声高に叫ばれる中、社会に出た後の環境を考えると男女一緒に学ぶ経験をしていた方が良いと考えています。共学化して4年が経ちました。お互いに異なる個性や異なる考え方に触れることで視野が広がり、ダイバーシティ&インクルージョンという概念を教室で体感することができているように見受けられます。 

共学化は保護者からのリクエストがあったことも事実です。「ダブルディプロマ」が先に開講し好評だったため、せめて同クラスだけでも共学にしてほしいというご要望を多数いただいていたのです。社会で求められる力に男女差はありません。共学化を表明した際に、保護者や同窓会からは全く反対がなかっただけでなくむしろ喜びの声があがったほどです。 

共学後の顕著な変化として、大学受験で理系志願者が明らかに増えた点が挙げられます。特に女子の理系志願者が増加しており、男子の影響を受けたと推察しています。本校のSTEM教育の一環として国際的なロボットコンテストW R O(World Robot Olympiad)に出場していますが、2020年は優勝することができました。理系分野にも強くなった証と言えるでしょう。

海外で暮らしているご家族へのメッセージ

学生時代に家族で海外生活することは、今は実感が伴わないかもしれませんが、後から振り返るとかけがえのない貴重な時間です。この機会に現地でしかできないことを大いに体験していただきたいと思います。どんな小さな経験も、日本に戻られれば全てが「異文化に触れた大切な経験」になるに違いありません。 現在本校に在籍する生徒の33%は帰国生です。彼らの活躍はめざましく、先日の模擬試験でも、高校1年の学年1位はシンガポールからの帰国生でした。英語をはじめ外国語が強みであることはもちろんですが、入学後の伸び代も大きいです。帰国生が日本で生まれ育った生徒たちに与える影響は甚大です。日本を外から見たことがある経験、現地でなければ分からないことを肌で感じている実体験は何ものにも代えがたいものがあります。生徒による校内放送では、英語のほかにスペイン語や中国語が流れることも日常になっています。帰国された際には、日本の常識や考え方と異なる点を級友に話してあげてください。 最後に、日々の生活や習慣から正しい日本語を身につけることの大切さ、そして自分の意見をしっかり持ちそれをきちんと身近な家族に伝えることの習慣づけをおすすめします。日本の国語の授業では、文章の論旨理解や論理的な表現が学年相応に求められ、帰国生が苦戦する様子が垣間見られます。外国語も大切ですが、日本語の読書や家族との会話を是々非々で心がけていただき、親御さんからも母国語の大切さや豊かさを伝えていただくことを願っています。

青井 靜男(あおい しずお) 氏

経済学部卒業後、ホテルマン、飲食業、旅行会社を経て文学部に編入。卒業後は企業研修会社に就職。1985年 文化女子大学附属杉並高等学校(現:文化学園大学杉並中学・高等学校)に入校。2020年より現職。

※文化学園大学杉並中学校高等学校に関する情報はこちらにも掲載しています!
https://www.spring-js.com/japan/school/5499/

※2023年4月25日現在の情報です。最新情報は各機関に直接ご確認ください。

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